年齢を重ねていくと、身体に現れる健康上の様々な問題。
場合によっては日常の生活が制限されるケースもあります。これに対し「健康上の問題で日常の生活が制限されることなく生活できる期間」を「健康寿命といいます。
ある調査では、平均寿命と健康寿命の差、つまり「日常生活において健康ではない期間」は男性で8.84年、女性では12.35年でした。
先日、日本の大学チームの研究で加齢に伴い発生する様々な疾病の発生原因となる「老化細胞」の生存に必要な遺伝子を特定、老齢の実験動物にこの遺伝子を妨げる薬を投与して体内の「老化細胞」を除去することに成功しました。
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老化とは
人は生誕から死を迎えるまでの間、常に何らかの形で「変化」を続けています。それはある時点まで「成長」と呼ばれ、人として「成熟期」を迎えた時点からそれは「老化」と呼ばれるようになります。
人間は生きていくうえでこの現象を避けることはできませんが、その進行するスピードは、個人によって差があります。
通常、「老化」とは、成熟期以降に起こる生理現象の衰退を意味し、様々なストレスに適応力が低下することで起こる変化と考えられています。
その例として、「認知症などの脳神経系の疾患」、「心筋梗塞などの心血管系の疾患」、「骨粗鬆症などの骨格系の疾患」などが挙げられます。
同じ年、同じ誕生日の人の間にも成長のスピードに個人差がある様に老化のスピードにも差が出てきます。体内の組織や細胞にもそのスピードがあり、一部の組織・細胞がが老化しても「他の部分が若いと他の部分が実年齢よりも若い」と言うことが起こることもあります。
老化のスピードは40代から加速すると言われています。これはこの年代になると体内の活性酸素を取り除いてきた「抗完成酸素酵素」という物質が急速に減少してしまう事が原因と考えられています。
老化の原因の1つとして考えられているのが「活性酸素」です。これは体内の細胞伝達物質や免疫機能として働く一方で、多くなりすぎると正常な細胞を傷つけ、「老化」を引き起こしますが、他にも様々な要因が絡み合い、「老化を確実に抑え込むことは難しい」、と考えられています。
細胞老化とは何?
人の老化は細胞レベルで見てみると生まれた直後から始まっていると言っても過言ではありません。
細胞は「分裂」⇒「休止」⇒「遺伝子を載せたDNAの複製」といったサイクルを繰り返しながら増えていきます。
ヒトの胎児から採取した細胞に対する研究では、採取した細胞は50回の分裂が限界であることが判明し、その限界(寿命)を迎えてその増殖を止めてしまうことを「細胞老化」と言います。
老化細胞では、増殖機能がもとに戻れないように制御されており、その細胞に増殖を促す処置を行っても再び増殖が始まることはありません。
ヒトの成長期は新しい細胞が補充されることで組織としての機能を保ち、老化を防ぐことができますが、年を取るごとに細胞が入れ替わるスピードが遅くなり、入れ替えることができなくなると、細胞の機能が低下します。
やがて細胞分裂の限界に達したすなわち「細胞老化」で生きていかなければならなくなります。
研究者たちの間では、こうした細胞老化の過程などについては知られていましたが、細胞の老化のメカニズムについては不明な点が数多くありました。
それが近年の遺伝子や体内物質の調査に関する技術の革新により、細胞老化に対する研究環境が整うことで数多くの研究成果が発表されるように
なりました。
その研究結果を積み重ねていく中で、がんの抑制遺伝子である「P53遺伝子」が細胞老化のカギを握っていることがわかりました。
この「P53遺伝子」は傷ついたDNAの修復や細胞の分裂の調整を行ったり、DNAの傷が修復できない場合に細胞老化を促進させて排除してしまうなど正常な細胞を守る役目を果たしています。
しかし、この遺伝子が特定に時期に活性化してしまうと細胞が増殖のサイクルから外れて、老化が進んでしまうことが判明しました。
細胞の老化を妨げる仕組み
研究グループでは、P53遺伝子を使って純粋な老化細胞を培養する技術を開発しました。そしてこの老化細胞を使って、その細胞の生存に必要な遺伝子を調べる研究を行い、その結果「GLS1」という遺伝子がそのカギを握っていることを発見しました。
人間の細胞の中には、古くなったタンパク質を取り込んで分解するための酸性で満たされた小器官があります。老化細胞の場合、この器官の膜に傷ができてしまい細胞全体が酸性に傾いてしまいます。正常な細胞は内部が酸性になるとやがて細胞は死んでしまいます。
しかし老化細胞の場合はこのGLS1が働き、内部にアルカリ性の物質を生成して酸性に傾いた細胞内を中和してしまうことで老化した細胞が生きながらえる事がわかりました。
そこで研究チームはこのGLS1の働きをストップさせ、細胞の内部を酸性に保ちながら老化細胞を自然死に導く方法を目指し、新たに開発したGLS1阻害剤を高齢のマウスに投与したところ、体内の老化細胞を除去することに成功しました。
実は老化細胞には、人体にとってとても重要な役割もあります。
それは「がんを防ぐ」役割です。
がん細胞は正常な遺伝子に複数の傷が付くことで発生し、体内の命令を無視して増え続け、その結果正常な細胞を壊していきます。
これに対して人間の体は、がん細胞自身とその周辺の細胞を老化させることでがん細胞の増殖を防ぎます。
つまり、細胞の老化は体内にあらかじめ組み込まれたプログラムの1つと言っても過言ではありません。
老化細胞が組織の「がん化」を促す一方で細胞の老化ががんの増殖を防ぐ、しかし老化した細胞が人体の「老化」を招く、と言うことになると全てが矛盾しているように見えます。
つまり、
・老化細胞が組織のがん化を促進したり、人体の老化の原因となる。
・細胞の老化ががん細胞の増殖を防ぐ。
この2つを両立させるには、「細胞の老化のプロセスを生かすが、老化した細胞を除去した方がいい」ということになります。
海外ではこのGLS1阻害剤を抗がん剤として投与する臨床実験が始まっており、明らかな副作用が認められなければこの阻害剤を「老化を妨げる薬」して開発する道筋が開けてきます。
まとめ
急速な勢いで高齢化が進んでいる日本。
老化を防ぐために日頃から食生活に気を使ったり、定期的に運動を行ったりしてみても身体の老化自体を防ぐことはできません。
様々な外科処置を施したり、器具を装着して生活している方々もいらしゃいますが、欧米などの一部の国ではそのようなこと自体を「虐待」とみなしているところもあるくらいです。
心身共に天寿を全うできることは多くの人達が望んでいることだと思います。
様々な疾病を治療する薬の開発も進んでいますが、このような薬の開発も一日も早く進められる事を期待したいですね。