自動車用半導体不足と「かんばん方式」の気になる関係?

時事

昨年から世界中で猛威をふるっている新型コロナウィルス禍の影響で、自動車用半導体の生産量が減少しました。

その影響でトヨタ、ホンダ、フォルクスワーゲンなどの主要自動車メーカーが減産や工場の一時操業停止に追い込まれる状況になっています。

世の中には半導体を使用している製品が数多くありますが、なぜ自動車用半導体だけが不足する事態になってしまったのでしょうか。

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自動車用半導体とは

自動車に搭載されている電気・電子システムは絶えず進化、大規模化しています。

以前、機械仕掛けで制御されていた部分がコンピューター上で動くソフトウェア制御に置き換わり、それらをコントロールするためにマイコンやメモリーで構成されている車載コンピューター(ECU : Electronic Control unit. 電子制御ユニット)が自動車に搭載されています。

その数は一般車で 30 個、高級車では 80 個にもなります。

燃費、信頼性、安全性などあらゆる面からも自動車の価値の向上に貢献し、導入される部分も広がりを続けています。2010 年の段階での製造コストに占める電子部品の割合は下記の通りです:

小型エンジン車高級エンジン車ハイブリッド車電気自動車
15 %約 30 %47 %70 %

最近では、ブレーキとアクセルの踏み間違いや車線のはみ出しを防ぐ機能がついた車が増え、ますます車に搭載される半導体の数が多くなり、自動車はまさに”走る半導体”といっても過言ではありません。

自動車用半導体不足が起こった原因

半導体を使用する工業製品でもかなりの範囲に及びます。

PCやスマートフォン、家電製品やおもちゃなど電気で動くものに関しては、ほとんどといって良いほど半導体が使用されています。

今年よりソニーの PS5 などの家庭用ゲーム機の生産や 5G などの普及に向けた通信機器の増産などにより、コロナ禍になる前から半導体が不足になるであろう、との予測は立てられていました。

加えて、コロナ禍による外出自粛やテレワークの推奨により PC やサーバー機器の需要が増えていました。

時期を合わせたように世界各地の都市でロックダウンや日本の緊急事態宣言の発令などで人の移動が制限された結果、製造業などでは生産が大きく落ち込む状態となりました。

自動車メーカーでも生産の低下に伴い、各部品メーカーに生産調整の依頼を出していましたが、それらの部品メーカーに製品を納入する半導体メーカーでは、減産する分を生産調整により余剰となる生産ラインで、需要の増加が見込めるゲーム機や PC 、サーバー用の半導体製造を開始しました。

コロナの影響によるテレワークの推進やそれに伴うインフラ整備への投資の増加などにより民生用半導体の需要が急増、車載用より民生用の生産が優先されたこと、自動車メーカーの予測を上回るペースで車の需要が回復したことで、車載用半導体の生産が追い付かない状態になりました。

また、一部の車載用半導体を生産している工場が寒波や火災などの影響で生産停止に追い込まれ、この状況に拍車をかけています。

車に搭載される半導体は、特殊な用途 (自動運転など) を除けば高性能・高価値のものは少なく、どちらかといえば使い古された技術で高い信頼性の部品が使用されています。

これは、使用する場所によっては車が走行不能になってしまうと乗員の生死にかかわる問題になることもあるため、なによりも信頼性・耐久性を重視するからです。

メーカーとしては、自動車メーカーは部品を大量に使用してくれるというメリットがありますが、価格が安いこと、納期に厳しいことなどから決して優良な顧客とは言えないようです。

今回の半導体不足と「かんばん方式」

1 台の自動車に使われているパーツの数は約 3 万点と言われていますが、それらのパーツをすべて自動車メーカーが製造しているわけではありません。

ほとんどのパーツは専門のパーツメーカーに外注し、それらのパーツをアッセンブリメーカーとして組み立てるのが今の自動車メーカー、工場の姿です。

自動車メーカーから外注を受けるパーツメーカーにもその下請けである協力工場があり、それらが時には国境を越えて複雑に交わり 1つのサプライチェーンを構成しています。

トヨタ自動車が発祥の「トヨタ式生産方式 ( Just In Time : かんばん方式 )」をご存じでしょうか?

これは生産現場において徹底的に無駄を省いて、生産の効率を上げることを目的としたものです。

簡単に言ってしまえば「必要なものを、必要なときに、必要なだけ」調達する、というものです。これは現在の自動車業界のサプライチェーンの業務ルール、となっています。

この自動車業界のサプライチェーンは、うまく正常に回っている時は良いのですが、何かが原因でチェーンが分断してしまうと全体に影響を及ぼしてしまいます。

これは「かんばん方式」のデメリットの 1 つと言われる「部品切れのリスク」になります。

これはチェーン内の一部で供給が止まると全体の生産が止まることにつながります。

過去にも 2011 年の東日本大震災で東北地方の部品工場が被災、直接関係のない東海や九州にある工場の生産がストップし、操業停止に至ったことがあります。

今回の自動車用半導体不足も、こういったケースの 1 つにあてはまるのかもしれません。

まとめ

今回の自動車用半導体の不足で、メーカーによってはすでに新車の納期に影響が出ているところもあり、他のメーカーでも今後影響が出てくるのでは、と考えているようです。

メーカーにとってはコロナ禍発生直後の急激な販売落ち込みから回復したという良いニュースが、逆に車載用半導体不足による新車の生産を滞らせる、という何とも皮肉な状況になっています。

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